#つながる不動産 “ヒトとヒト”その5
所属する日本開発工学会に提出した研究ノート「不動産仲介業ー顧客が顧客を呼ぶ感動価値の創出ー」について連載の第5章。顧客の信頼を得る取組、住宅ローンコンサルティング、顧客対応の共有化について説明をする。以下、日本開発工学会に報告した研究ノートを寄稿する。
初めてお会いする段階で顧客に物件の紹介はしない
どのような暮らし方を希望されるのかを聞く
当社では顧客との第一次接客に注力し、出来うる限りの信頼関係構築を目指している。初めてお会いする段階で顧客に物件の紹介はしない。売却を希望する顧客も同様、いきなり売却金額の話はしない。仲介業者において重要なのは、目の前の顧客がどのような暮らし方をしてきたか、そしてこれからどのような暮らし方を希望されるのかを聞くことである。プロとしての経験を活かしいろいろな事例を掲げ、分かり易く説明をし、顧客の隠れたニーズまでをも導き出す。これは社員や取引先にも言えることである。
当社では、顧客のニーズを丁寧に把握しながら向き合うためには、組織として接する事が必要不可欠と判断し、4 年前から完全固定給制度に切り替えた。それにより社員間の過剰な競争はなくなり空気は一変したが他方、月末の締め切りといった緊張感は保てなくなりいわゆるサラリーマン化の傾向が見られた。
その対策として、組織として目指す方向を最大限に共有するために、社員とのコミュニケーションを強く意識するようになった。現在では、社員の意識は大きく変わり、自己のストレングスを活かすべく自主的に業務に関わり始めている。
無理のない支払い能力を提案することが重要
当然のことながら顧客は常に不安を抱えている。
「本当にこの場所でいいのか」「住宅ローンはどのように組めばいいか」「入居後の対応はしてくれるのだろうか」。その中で一番の困惑は、住宅ローンについてである。メガバンク、住宅金融支援機構フラット 35、ネットバンク等商品選択肢が拡がり顧客にとって有利になった反面、商品構成はより複雑になり、顧客には分かりづらくくなった。金利の高低といった表面的なことだけでなく、生命保険や損害保険等各方面各視点を考慮しないと比較にならない。
例えば、非喫煙者の顧客が住宅金融支援機構フラット35 で借入をする場合、機構団信 (注 6) と比較し、民間の生命保険会社の保険に加入したほうが安価となったりする。宅地建物取引士やファイナンシャルプランナー等有資格者でも正確に把握できてない場合すらある。
顧客が借り入れをする場合、多くの金融機関においてはスコアリングといった審査方法でその融資を判断している。スコアリングとは勤務先、勤続年数、年収、既存の借入状況といった個人情報をもとに顧客をランク付けし、機械的に融資審査をするものをいう。この審査方法が顧客にとって不利になる場合がある。
具体例として他仲介会社ではローン審査に通らなかったある外国籍の顧客が、一部の金融機関では来日してからの年数、勤務先、勤続年数や自己資金といった一定要件を整えることで融資承認となったケースがあり、このような場合は顧客の背景をどこまで深く聞き出せるか、それを書類にまとめることが出来るか否かで結果は大きく相違した。最近多い非正規雇用の場合も同様であり、顧客の真の支払い能力を見極めることは重要必須である。
(注 6)機構団信:「機構団体信用生命保険」の略。住宅金融支援機構の生命保険を利用した住宅ローンの保障制度である。
クレーム対応は最優先の仕事である
担当営業一個人ではなく、会社の客として顧客に接する。顧客との連絡手段としてメールを使うことが格段に増えた。それに伴い当社では、メール履歴を社内共有し迅速な対応を可能にした。契約や引き渡しを済ませた顧客の対応も同様である。「過去の水災等被害状況を知りたい」、「以前見学、両親と再度見学をしたい。その際に耐震性について両親に説明をして欲しい」、「親より資金協力されることになったので贈与税について教えて欲しい」など、顧客のニーズは多様である。
担当者不在の時、その対応が遅くなっては機会を失する。特にクレーム対応においては担当営業者しか経緯経過を知らない場合が多い。担当者不在を理由に二度三度と連絡させることは顧客にストレスを与え、最悪の場合、その対応が不信や不安を煽り信頼関係の失墜に繋がる。
クレームともなると後回しになりがちなのが現実である。クレーム対応は経営者の仕事である。社内全体で顧客を共有、経営者自らが対応することにより信頼関係は増し早期解決に繋がる。過去の事例として迅速なクレーム対応が評価され紹介契約に結びついたこともある。社内における顧客対応の共有化は歩合給制度を廃止し、固定給制度に切り替えたゆえに可能になったと考える。
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