紙つなげ!彼らが本の紙を造っている
2011年3月11日、宮城県石巻市にある日本製紙石巻工場でなにが起きたのか?未曾有の大惨事となった東日本大震災から6年が経過する今、本書を読み、自然の力を前に無力さを感じました。が、彼らがいたからこそ今の出版業界があるとも強く感じました。年間100冊超の本を読みますが、まさか、紙がそれほど繊細であり、高度な技術で造られていたとは全く知りませんでした。
壊滅状態からの復興宣言
『8号(出版用紙を製造する巨大マシン)を回せ!8号が止まるときは、この国の出版が倒れる時です』~従業員の誰れもが「工場は死んだ」と口にするほど絶望的な状態。食料もの入手も容易でない、電気もガスも水道も復旧していない状況の中で、工場長は半年後の復興を宣言します。
紙に対する想い
辞書に使われる紙は、極限まで薄く、いくら使っても破けないという耐久性が特徴だ。しかも静電気を帯びないように、特殊加工が施されており、高い技術が要求される。雑誌に使われている用紙は、読んでいて楽しさや、面白さを体験できるものであることが求められる。最近よく好まれているのは、紙が厚くて、しかも柔らかく、高級感のあるものだそうだ。読者はめくった時の快楽を無意識のうちに求めているのだろう。ところで、雑誌には、たいてい異なる手触りのページが何種類か含まれている。雑誌の中に挟む込まれた、異なる質感の紙をアクセントページという。これは「ここから違う特集が始まりますよ」という合図であるとともに、異なった「めくり感」を出すことで、新たな興味を抱いてもらうという演出である。同質の紙ではやがて飽きてしまう。そこでアクセントページの、指先から脳へ伝わる異なった触感が、未知のものへの好奇心をそそるのである。文芸の書籍には文芸の紙の選び方というものがある。装幀家や編集者は、原稿に目を通し、作品の中身を咀嚼したうえで紙を選ぶ。(本書より引用)
工場長と居酒屋店主の話
当時、あまり報道されていなかった被災地の状況、極限状態の人の言動には心が破れそうになりました。決してきれいごとでは済まされない、死ぬのも地獄、生きるのも地獄。淡々と話される内容に映像以上の情景が浮かび、津波以上の恐怖感に覆われました。生きる、生き抜くために‥復興という「美しいもの」を描くのと同時に、「震災の現場は、美談だけが生まれていたのではない」と著者は綴っています。
天災は忘れたころにやってくる~まだまだ復興には道のりが遠い状況です。人は生きているのではなく、生かされている、そのように感じた一冊でした。『生きている中で今が一番若い』、今日も元気に顔晴ります。
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